組織内弁護士、事務所弁護士に聞く米国法で拓くキャリア

ビジネスのクロスボーダー化を背景に、いま日本の弁護士たちから大きな注目を集めているのが米国弁護士資格だ。

日本人が国内で働きながら米国弁護士(カリフォルニア州・ワシントン州)資格を目指せる本邦初のプログラムを提供する国際資格の専門校アビタスでは、4月15日に「米国法で拓くキャリア」と題したセミナーを開催。
企業や法律事務所から、多くのリーガルパーソンが集ったセミナーの模様をリポートする。

編集/レクシスネクシス・ジャパン広告出版部

グローバル時代に輝く米国弁護士という資格

ベーリンガーインゲルハイムジャパン株式会社 執行役員 法務部長 弁護士・ニューヨーク州弁護士 平泉 真理氏

米国各州で実施される米国司法試験( BarExam )を受験するためには、原則として一定水準の法学学位を取得する必要がある。

全米法曹協会(ABA)認定のロースクールにおける法務博士(J.D.)や法学修士(LL.M.)の学位がそれに当たるが、日本の弁護士の場合、カリフォルニア州ではそうした法学学位がなくても受験資格を得ることができる。
また、ワシントン州の場合は、日本の法務博士(法科大学院修了)の学位に加え、米国のロースクールでの法学修士の学位が必要になるが、こちらはオンラインによる履修が認められている。

州によっては留学という高いハードルを越えずに受験することができるうえ、日本の司法試験と比べて合格率が高く、受験期間の制限もない。
さらには、司法試験に通れば全米共通の倫理試験(MPRE)に合格し、宣誓等を行うと弁護士登録が可能になる。
リーガルパーソンとしてのキャリア形成に大きく寄与する資格であることはもちろん、そうした受験・登録の容易さも、米国弁護士資格が大きな注目を集める理由だ。

国内外で活かせる米国法の確かな知識

リンク総合法律事務所 弁護士・カリフォルニア州弁護士 山口 貴士 氏

日本の司法試験に比べて合格率が高いとはいえ、当然ながら米国司法試験に合格するためには、米国法を体系的に学ばなければならない。
セミナーではまず、受験勉強を通して身につく「米国法の知識が実務でどう役に立つのか」をテーマに、パネルディスカッションが行われた。

「日本法とは異なる法体系であるコモン・ローの知識を学ぶことで、国内法のプラクティスにおいて比較法的な視点を持てるのは明らかなプラス。また、日本では米国で使われている英文契約書をそのまま翻訳したものを多く見かけますが、米国法の構造が理解できれば、それらをチェックして問題点を見つけるのも容易になります」

そう話す山口貴士弁護士は、小学1年生から中学1年生の途中までをニューヨークの現地校で過ごした帰国子女であり、2013年に日米両国にまたがる大規模投資詐欺事件を受任したことをきっかけに、「必要に迫られてカリフォルニア州司法試験を受験した」(山口氏)。

同氏は現在も日米両国で提起されている裁判に関わっているが、米国人弁護士とのディスカッションや訴訟戦略の立案、クライアントである日本側弁護団に対する米国法や現地手続の説明など、「米国法の知識は実務のあらゆる局面で役に立っている」と言う。

カリフォルニア州司法試験に2012年から挑む前川直輝弁護士も、「国際取引契約において、契約書に出てくる各条項の重要性や優先順位が理解できるのは、米国法を学ぶ大きなメリットの一つです」と話す。

しんめい法律事務所 弁護士 前川 直輝 氏

前川氏は外国人経営者から日本でのスタートアップの相談などに乗る機会も多く、受験に向けて米国法を学ぶうち「特に米国人のクライアントから説明の分かりやすさを評価されることが増えた」とも実感している。

「彼らが知りたい日本の法制度やその概念を、米国法と比較しながら分かりやすく説明できるようになったからだと思います。
また、米国法と比較することで日本法への理解がより深まったり、日本の司法試験とは異なる米国司法試験の特徴である“加点式での考え方”が身についたおかげで、柔軟な発想で事件が処理できるようにもなりました。
もちろん合格が第一の目標ではありますが、私の場合は、受験勉強の過程でも多くのことが実務に役立っています」(前川氏)

山口氏と前川氏は法律事務所に所属する弁護士であるが、インハウスの弁護士にとって、米国法の知識はどのような場面で役に立つのだろうか?

「グローバル化が進む現代において、英米法の概念を取り込んだ英文契約書の作成などは、あらゆる組織にとって避けて通れない業務になりつつあります。
そうした契約書のドラフティングやレビューのスピードが格段に上がるなど、インハウスの弁護士にとっても米国法を学ぶことには大きなメリットがあります。

加えて、私の場合はグループ会社の海外での訴訟をサポートすることもあるのですが、準拠法になることが多い英米法や米国の法制度に対する知識は、日本とは異なる現地の訴訟手続を理解するうえでも有効です」
そう話す平泉真理弁護士は、ニューヨーク州弁護士資格を持つ組織内弁護士であり、ドイツに本社を置く製薬メーカーであるベーリンガーインゲルハイム社の日本法人で執行役員を務める。

国際資格の専門校アビタスの代表である三輪豊明氏の挨拶では、直近の合格者情報の発表も。

「例えば、ディスカバリー(証拠開示手続)や弁護士・依頼者間秘匿特権といった制度は日本の訴訟手続にはありません。
しかし、海外の訴訟においてディスカバリーの対象となる証拠が日本にあれば、海を越えて提出しなければならず、証拠の散逸を防ぐ必要があります。

また、秘匿特権については、外部の弁護士による法律意見書を慎重に扱わなければ、社員が第三者にうっかり転送してしまうなどして、放棄したとみなされる可能性があります。

米国など海外の訴訟では、手続き上のミスが致命的な結果につながりかねませんから、特にグローバル展開する企業のインハウスの場合、米国司法試験の受験に際して学ぶ知識は非常に役に立つと思います」(平泉氏)

平泉氏はさらに、受験勉強で膨大な数の英語の法律用語を覚えたことが、「海外の弁護士やマネジメント層との円滑なコミュニケーションに役立っている」というメリットも紹介。
米国弁護士資格の取得には必須となる、日本とは異なる米国の法制度や訴訟制度に対する理解と法律用語の知識。実務におけるそれらの重要性については、山口氏と前川氏も深く同意した。

米国弁護士としての存在感が発揮できる

パネルディスカッションの二つ目のテーマは「米国弁護士資格という信用」。米国弁護士資格を取得することで周囲からどのような信用が得られるのか。実務上のメリットを各氏が語った。

「例えば、米国などで現地の弁護士と仕事をする場合、日本の弁護士資格しか持っていないと、彼らは無資格のコンサルタントとしか見てくれません。いわばワンランク下の扱いですし、〝非弁〟ですから報酬分配の問題も起きてしまいますが、米国弁護士資格を持っていれば発言力も扱いも同等になります。

ましてやカリフォルニア州の弁護士資格は米国でも難関と認識されているため、特に英米法圏のクライアントからの信頼は非常に高いものがあります」

普段からクロスボーダー案件を手掛け、海外メディアに向けた記者会見や海外のプレスからの取材などにも対応する山口氏にとって、カリフォルニア州弁護士という肩書きは、その発言の信頼性を担保するうえでも大きな意味を持つ。
さらに山口氏は、「名刺に資格を記載するだけで英語力がアピールできる」「タイムチャージの設定に有利」といった具体的なメリットを挙げた。

また、平泉氏は法務部門での採用に関わってきた経験から、「企業への就職を考えるなら、日米のダブルライセンスがあると圧倒的に有利」と話す。

「現在では、企業の法務部が人材を募集すると数多くの応募があります。競争はまさに熾烈ですが、ダブルライセンスには希少価値があるので、書類選考で落とされることはまずないでしょう。英語力のアピールについても、確かに米国弁護士資格があれば十分な証明になりますね」(平泉氏)

グローバルにビジネスを展開する日系企業などのインハウスローヤーには、海外の子会社や関連会社の法務部と連携し、法務を全体的に統轄することも期待されている。
特に訴訟大国である米国などではインハウスの発言力が強い場合もあり、「彼らから信頼を得るうえでも米国弁護士資格を取得することの意味は大きい」とも平泉氏は語った。

試験構成の変更が日本人の追い風となる

そしてパネルディスカッションの最後に用意されたのは、「米国弁護士資格に合格するには?」というテーマ。
合格への近道となる受験勉強などのノウハウが、パネラー各氏から明かされた。

まず3名が共通して語ったのは、余事記載が減点される日本の司法試験とは大きく異なる、米国司法試験の“加点式”という特徴だ。

「例えば、エッセイではどれだけ論点を拾えるかが勝負になります。無関係な論点をどれだけ書いても減点はされません。合格に向けた戦略としては、まずは論点の論証をひたすら覚えること。

そのうえで、問題文から論点を抽出してルールを当てはめ、結論を導き出すことを繰り返します。重要なのは、インプットと駄目元精神。極端な話をすれば、論点名と結論だけを書いても点数は付きますし、論証を忘れたらキーワードを書くだけでも点数はもらえます。

また、米国司法試験の場合は科目が明確に分かれておらず、問題を見るまでどの科目について問われているのかが分かりません。ですから、問題文を読んで何の科目についての問いなのかをしっかり掴めるようになることも重要です」(山口氏)

「米国司法試験の採点員は若手弁護士などのアルバイト。エッセイでは読み手を感心させる素晴らしい答案は必要ないので、とにかく結論まで書くことが大切です。また、カリフォルニア州試験では2017年7月より試験期間が3日から2日に短縮され、同時にマークシート式の比率が35%から50%に上がりました。

英語の読み書きのスピードが問われる論述式の出題が減ることは、日本の受験者にとって大きな追い風になるのではないかと思います」(前川氏)

アビタス米国弁護士プログラム担当者よりプログラムの説明
アビタス米国弁護士プログラム担当者よりプログラムの説明

さらには、マークシート式のMBE(全州共通択一試験)に加え、法律家としての基礎技能を試すパフォーマンステストの対策や有効な勉強法、PCを使用して受験する際の注意点や万全の状態で試験を迎えるための準備などを、パネラー各氏がそれぞれの経験から具体的にアドバイス。

米国弁護士資格の取得を目指す参加者たちにとって、実に有意義なものとなった約2時間のセミナーは、「皆さんにも確実にメリットをもたらす資格なので、ぜひ挑戦してもらいたい」というパネラー陣からの熱いメッセージで締めくくられた。


ベーリンガーインゲルハイムジャパン株式会社
執行役員 法務部長 弁護士・ニューヨーク州弁護士

平泉 真理 氏

司法修習51期。大阪の法律事務所で約3年半勤務後、ニューヨーク大学ロースクールへ留学。同大学でのLL.M.取得後、2004年にニューヨーク州弁護士登録。米国法律事務所勤務、外務省での任期付き公務員を経て、2007年から企業内弁護士。2013年から現勤 務先にて勤務。

リンク総合法律事務所
弁護士・カリフォルニア州弁護士

山口 貴士 氏

司法修習54期。日英バイリンガルのマチ弁。日米両国で訴訟を提起したクロスボーダーの大型投資被害事件を受任したことをきっかけに、米国のBar 対策予備校を受講し、カリフォルニア州司法試験に挑戦するようになり、2015年12月に同州弁護士として登録。

しんめい法律事務所
弁護士

前川 直輝 氏

司法修習54期。2006年に弁護士2名で現事務所を開設。金融機関等企業から個人まで民刑事幅広く取り扱う。大学時代ESSに所属してから英語を使うようになり、中小企業の経営や起業を準備する外国人に向けて英語での相談・代理業務に従事。アビタスのBar対策講座を知り、2012年からカリフォルニア州弁護士資格を目指し、現在受験中。

※当記事はビジネスロー・ジャーナル(6/21発売号)に掲載された内容と同一です



アビタスの米国弁護士プログラムは、留学不要。働きながらカリフォルニア州・ワシントン州のBarExam対策と受験条件充足ができる日本初のプログラム。詳しくは、講座資料や無料セミナーでお伝えします!

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